岡田直子です。東京の某人気鮨店ご一家をローマでご案内したときのこと。「普通のツーリストができないような体験をしてみたい」とのリクエストがありました。そこで思いついたのが、イタリア人の自宅で開催される少人数制の料理教室です。これが、イタリア料理も、イタリア人の自宅も、いまや珍しいとは思わない私にとってさえ、予想外に楽しくて素晴らしかったのです。
普通の旅行では、現地に友人でもいないかぎり「その国の人達がどんな生活をしているのか」を実際に見ることは、なかなかできません。どんなお家に住んで、どんな雰囲気で過ごしているのか…レストランで出てくる料理ではなく、現地の人たちは普段どんなものを食べているんだろう…。自宅で開催してくれるお料理教室なら、それらの全てを見て、感じることができるんです。
ローマの友人が、料理研究家クリスティーナさんを紹介してくれました。彼女の大学の卒論テーマは「15~16世紀の栄養史」。その後、料理学校コルドン・ブルーを卒業、レストラン・ホテル・チャーター船舶などで経験を積み、2004年アトランタ、2006年トリノオリンピックでは、アメリカチームから、選手の栄養管理のために招聘されました。現在はローマで料理教室を開くほか、ケータリング業務や、海外からのリクエストも多く、ひっきりなしにあちこちを飛び回っています。
わたしたちがお願いした日、クリスティーナさんには他の仕事が入っており、叔母であるジョバンナさんが、アベンティーノの丘(ローマの高級住宅街)にあるクリスティーナさんのご自宅で迎えてくれました。
-フェットゥッチーネ(きしめん状の卵入り手打ちパスタ)のトマトソース・パルミジャーノチーズがけ。上の写真は、生のフェットゥッチーネを作り始めるところ。私(岡田)の前にある小さい機械が、パスタを伸ばすマシン。
-鶏肉のカチャトーラ(猟師風)・ローズマリー風味
-ティラミス
わが子が長旅から帰ってきたりしたら、イタリアのマンマはこんなメニューで迎えるんだろうな、というような「定番中の定番」メニューです。まず気づくのは、食材の質がとても良いこと。その辺のスーパーではなく、ちゃんと高級食材店や市場で新鮮な素材を用意してくれたことがわかります。メニュー外に用意してくれたグリーンサラダの、ルッコラやレタスの美味しかったこと。パンも、高級食材店「ボルペッティ」のものだと、見てわかります。
これまたメニュー外に用意してくれていた、前菜の「ズッキーニの花のフライ」を手際よく作っていくジョバンナさん。私たちは、食前酒のスパークリングワインを飲みながらキッチンを囲みますが、メインのゲストは、研究熱心で知られる寿司職人の親方ですから、ジョバンナさんに、あれこれ質問攻め。
みんなでワイワイ、パスタ生地をこねたり伸ばしたり。あれれ、伸ばすのって簡単に見えて案外難しい。
その横で、メインディッシュの鶏も、特大フライパンの中で着々と調理されています。
総勢10人分の量の料理を、手際良く進めていくジョバンナさん。長年料理をしてきた人特有の「美味しいものを作りだす手」をしています。上品で、はにかみ屋さんで、心優しく暖かな女性らしさがにじみ出る、ひと目で好感を持たずにはいられない女性です。
ジョバンナさんのお料理の美味しさには、取材などで美味しいものもけっこう食べてきたわたしでさえびっくり。今まで食べたパスタの中で5本の指に入るかも、ぐらいの勢いです。シンプルなものほど美味しく作るのが難しいですから、彼女のお料理は本当にすごい、と思いました。
ティラミス・フェチなわたしは、メニューにティラミスがあれば必ず注文し、いままでかなりの数を食べてきましたが、彼女のティラミスも間違いなくトップ5に入る美味しさ。とんでもなくまろやかで優しい味、甘さ・苦さのバランスと、クリームのこってり具合がすべて「絶妙な加減」なのです。
彼女の料理が素晴らしいのは、素朴な「おふくろの味」でありながら、上品さが同居していることです。すべてが完璧に「程良い」。これは経験を積むことによってのみ、獲得できるセンスなのかも…と思いました。
食後のカフェを用意しながら、コーヒーカップを指してふと思い出したように「これはうちの家紋なのよ」というジョバンナさん。「家紋があるという事は、おたくの家系は貴族ですか?」と聞くと「そうよ、○x(貴族の称号)なの」。どうりで自然な気品が身についているわけです。
この日は参加者10名、17時~デモンストレーション3時間+20時~夕食。
食材・スパークリングワイン1本・白ワイン1本・赤ワイン2本・リモンチェッロ(食後酒)込みで600ユーロでした。
別の機会にクリスティーナさんにも会いました。同じように気さくで溌剌とし、かつ上品で、とても魅力的な女性です。
ローマで、イタリア貴族のお宅拝見もできて、心のこもった美味しい手料理が食べられて、その料理がどのようにして作られるのかも見られちゃうという、レアな体験をしてみたい方には、とてもお勧めです。イタリア語はもちろん、英語でも料理教室や、市場めぐりツアーなどを開催しています。
*クリスティーナさんはウェブサイトを持っていません。ご興味がおありの方は、下記にコメントいただければ、コンタクト先をお伝えいたします。(岡田直子)
初めまして。クリスティーナさんに興味があります。是非コンタクト先を教えて頂ければ有り難いです。どうぞ宜しくお願い致します。
投稿情報: カンナ | 2012/02/18 19:57