岡田直子です。
3月11日以来、イタリアで日本がどのように報道されているかをお伝えしようと思いつつ、多忙のため時間がとれずにいる間に、日本での状況がどんどん変化していきました。
当初メディアの関心は大きく、各新聞もTVニュースもトップ扱いの日々が続きました。例えば全国紙「レプブリカ」web版では、地震発生から3月19日のリビアへの軍事介入開始まで、日本のニュースが常にトップでした。衛星放送チャンネルSkyでは、日本の地震関連だけを報道するチャンネルをひとつ作ったほどだそうです。
イタリア人友人、とくに新聞記者の友人は福島第一原子力発電所について、わたしの言うことと、イタリアで報道されていることの温度差に非常に危機感を持ち、わたしがまだ「そっちの方が大げさなのよ」と言っていた頃(のちすぐに私たち日本人も、政府や東電は情報を隠している、ということに気づくわけですが)から「君たちは情報統制されている」と言って、スカイプでイタリアのニュースで言われていることを実況中継してくれたりしました。
わたしに危機感を持たせる目的は、心配してくれるあまり、一刻も早くローマに避難して来い、ということだったのですが。
イタリアでは水素爆発(第1号機3月12日、第3号機3月14日)直後から、フランスの専門家などにより、今思えばかなり詳しく的確な分析が報道されていたと思います。かなり早い段階、水素爆発の直後からすでに「コントロール不能になっていて、放射能ダダ漏れになっているはずだ」とあちらの報道を毎日のように伝えてくれるイタリア人友人から言われ、その時はわたしもまだ「また大げさな。すぐに事態も回復して、大事にならずに済むって」と思っていたのです。
その後、4月になって事故がレベル7に引き上げられたとき、原子力安全委員会が「大気への放射能放出量は3月15〜17日の時点でレベル7に相当する量が放出されていた」と発表し、彼ら(イタリア人たち)の言っていたことが当たっていたことがわかったわけです。
たくさんの報道がなされ、在日イタリア人たちもブログなどで情報を発信しています。
淡々と事実を羅列して報道している記事は普通なので置いておいて、いくつか目を引いたものを挙げますと、驚いたのはレプブリカ 紙3月20日付の記事「Tokyo capitale in agonia "Qui non vivremo più"(東京、死期の首都『ここにはもう住めない』)」。
これを読んだ、東京に来たことのあるローマの友人が驚いて「東京が死の町になってるってホントか?!400万人が避難?!東京がそんなことになってるなんて耐えられない!」と悲痛なメールを送ってきて、「は?」と思ってこの記事を読んだわけですが、
「東京は断末魔の町」 「道を歩く人もまばら」
「3日前からゴミは回収されずに道端に積み上げられている」
「3月11日以前に製造された加工食品は入手不能、あっても価格は7倍につりあがっている」
「1週間で不動産価格は東京で30%、福島で70%下がり 、大阪・京都・神戸では40%上がった」
という記述の数々に、わたしは日本に居て東京の友人達とはこのところ特に密に連絡をとりあっていたので「うーんそんなことはないと思うんだけどなー…でも自分の目で見てないから断言できないしなー…」と微妙な感じになっていたわけです。このあたり、東京はどうだったのですか?>マスヤマさん
(桝山コメント)現象をひとつひとつ取れば、電車が動かなかったから”人もまばら”だったし、”ゴミも回収されず”、ごく一部で食品の高騰や、不動産価格の暴落(という報道)もあったかもしれません。ただ、どう考えても”断末魔”では無かったし、”400万人が避難”は、完全な事実誤認ですね。東北全体で、最大時に”40万人が避難”したことのケタを間違えたのかな?(コメントここまで)
またこの記事はタイトルがセンセーショナルなのでびっくりするのですが、通常は新聞記事はタイトルだけ専門につける人がいて、執筆した記者がつけるのではないんです。
レプブリカ紙ではその後も、大きな余震があったり、原発で出来事があるたびに日本がトップに躍り出ました。ここ数日はもう一面から消えており、国際面でもかなりページをスクロールしなければ日本関連の記事は見つかりませんが、東電から発表があった日や何か大事な動きがあった日は、記事が出てきます。
「Apocalisse in Giappone」というタイトルで津波や地震の写真を集めたページもあります。「Apocalisse」は英語のアポカリプス、「黙示録」ですね。つまり「世界の終局」というニュアンスです。
それから、すごいなと思ったのは、各原子炉の現状のわかりやすい図、状況進展のたび随時アップデートされていること。「Reattore」=「原子炉」、「Reattore 1」なら「1号機」。そこをクリックすると現在の状態の記述が出ます。
あと、日本のほかに、(アメリカでもいたようですが)イタリアでも「これは天罰じゃ」と言った人がいます。日本でも報道されましたが、CNR(Consiglio Nazionale delle Ricerche=国立研究会議)という、科学界の権威的組織のロベルト・デ・マッテイ副会長が、東日本大震災について「神の善きご意志のしるしである」と発言し、各方面から非難を浴びています。
CNRという組織は科学界の権威的存在ですが、記事によるとデ・マッテイ氏は2009年にアンチ・ダーゥイン説の会議を主催したりして、組織内でも異色の存在のようです。
CNR内外で「このような思想を表明する人間がこのような重要な組織を代表することはできない。組織を世界中の笑いものにしてしまう」という意見があり、辞職を求めるオンライン上の署名は4月22日現在1万4千人を超えています。
それにもひるむことなく、デ・マッテイ氏はこの発言は、1911年マッツェッラ大司教がメッシーナ(シチリアの町)地震(1908年)に言及した記述の引用だと主張。そしてローマ帝国の滅亡はホモセクシャルたちのせいだとも(ものすごくはしょっていますが、イタリア語読める人は詳細をここで読んでください)。
さらに、メッシーナの地震は「無神論者たちへの罰」、ワルシャワの地震は「(町で行われていた)中絶に対する罰」とたたみかけています。
一方、この件についてのバチカンからの見解と思われるコメントがありました。
「罪人と無実の人を等しく襲う地震・ハリケーンやその他の災害は、神の罰では決してない。その反対を唱えることは、神と人間を冒涜することである。しかし、それらは警告である。この場合は、科学や技術だけがわたしたちを救うのだと思い違いをすることに対する警告である」
これは4月22日、ローマ法王列席のもとサンピエトロ大聖堂で行われたキリスト受難をたたえる礼拝において、ラニエーロ・カンタラメッサ神父により説かれた説話の一部であり、事実上デ・マッテイ氏の一連の発言への言及ととらえることができる。とレプブリカ紙は結んでいます。(岡田直子)
*下の写真と本文は、関係ありません。