"Fantasma" 制作時に”ハンダ付けマン”が起こした事件!?
桝山:2010年11月に、”Fantasma”のリマスター版が出ました。アルバム1枚のみの通常盤と、CD2枚+DVDの初回限定盤。マスタリングに関する、専門的な話は、後でうかがうとして、まずは1997年の”Fantasma”オリジナル盤、制作当時の逸話とか、印象に残っていること、ありませんか?
P010 (2003年4月)
美島:うーん、何だろう…。今回の”初回限定盤”に入ってるブックレットでは、僕もしゃべっていて、多少書いてあるんですが、僕のローディ(アシスタント)が全然使えないヤツだったっていう(笑)、小山田さんの弁当食っちゃうし(笑)。
桝山:ローディさんというと、一般にはライブのために楽器や機材を運ぶために必要な人手、っていうイメージですが。レコーディングでもローディが必要だったんですか?
美島:当時は、外のスタジオも使っていたし、機材の移動がけっこうありました。まだ機材の量も多かったし、ローディ君が常についてました。でも、勝手に人の弁当を食ったりしやがって(笑)。
桝山:それって、能力の問題っていうよりも人として …(笑)。
美島:そう。今でも、小山田さんと”Fantasma”のことを思い出すと、一番覚えているのがそのことで”あいつ、俺の弁当食いやがって”って…。
桝山:食い物のうらみは恐ろしい(笑)。それって、人生においてあんまり経験しないですからね。
美島:アイツは常に、なんか食ってたよなと(笑)…。
桝山:それは すぐにクビにしたんですか?
美島:いや、そいつは一つだけ特技があって、ハンダ付けがスゴい。
桝山:それ、重要ですね(笑)。
美島:その後、コーネリアスがワールドツアーに行くじゃないですか、その時にケーブルとか、沢山作らないといけなくて、そいつがだいぶ活躍しました(笑)。
桝山:ハンダ付けマンとして(笑)。
美島:ハンダ付けマン。今でも、ヤツの作ったケーブルが現役で動いてます(笑)。
桝山:その方、今は何してるんですか?
美島:わからないです。名前…なんつったっけな?
桝山:あ、無理に思い出さなくても大丈夫です。ただ、名前が書いてあると、ご本人がこの記事を見るかもしれないじゃないですか…。でも、ハンダ付け重要ですよね。早くて、上手くて…。
美島:上手かったですよ〜。うん。
桝山:ケーブルに限らず、電気使う音楽やってると工作みたいな作業って必要ですよね。なんだかんだで。他に”Fantasma”では、何が大変だったんですか?録音の技術的なこと以外だと。
美島:曲をつなげて作るっていうのが。初めてだったのかな〜。最初から、そういうコンセプトだったんですよ。全体的に。
桝山:それは、何か理由があったんですか?
美島:まぁ、よく言われることですが、ビーチボーイズの”ペットサウンズ”を意識してるんじゃないかな〜。
桝山:ビートルズの”ラバーソウル”に強く影響を受けたのが”ペット・サウンズ”で、それを意識したのが”Fantasma”という流れになりますかね…。これは、あえて音楽評論家的な表現で言うと、今のコーネリアスにつながるアルバムって、やっぱり”Fantasma”だと思うんです、海外での発売もここからだし、最近のライブでセットリストに入る曲も多いし。ファーストやセカンドからの変化は、制作当時、感じましたか?
美島:そうですね。それまでは、色々と、これパクってみようかっていうのがあったけど。
桝山:おっと…。それ、言っていいんですか?
美島:え?いい…んじゃないんですか。このレコードをサンプリングしてみようか、そういうことですから。それが無くなって、アーティストの内面が出てきている感じになってきたと思いますよ。
桝山:なるほど。乱暴を承知で比較すると、ビートルズだって最初はロックンロールのカバーバンドから始まって、後から発表されたレコード・デビュー前のオリジナル曲って、それほどスゴくはないですよね。最初のシングル…何でしたっけ?
美島:んー、”Love me do”。
桝山:あれ、ジョージ・マーティンは”ジョンのハーモニカ(ハープ)が良かった”と言ってるそうですが、あえて言えば”うわー、これはスゴい!”っていう程じゃないですよね。実際、発売当時のチャートではイギリスでも17位までしか行かなかったし。
美島:あれは、まぁ、普通に…うん。
桝山:で、やっぱりその次のシングル”Please Please Me”は、今聴いてもスゴいというか、ドッカーンと爆発した感じがありますよね。
美島:そうですね。”Fantasma”もそういうところがあるから。みんなが色々言ってくれるのかなという気がします。ファーストやセカンドよりは、全然評価が高い。
桝山:…ですよね。作られていたご本人達も、そういう手ごたえはあったんですか?
美島:スゴいかとどうかは、ちょっと判らないけれど、今までと違う感じだなというのはありました。
桝山:どこかのインタビューで見たんですけど、ツェッペリンの”Stairway To Heaven(天国への階段)”あるじゃないですか。ロバート・プラントだったかな、あれは、やっぱり作ったときに、自分たちでも”スゴいもの作ったな”という感触があったと言ったそうです(桝山註:出展不明。どなたかご存知であれば、教えてください)。
個別楽曲解説・”MIC CHECK”・”MICRO DISNEYCAL〜”(part 1)
では、ここからは”Fantasma”の一曲一曲について、思い出せる範囲でコメントいただきたいと思います。
美島:えー!一曲ごとかぁ。覚えてないんだよなぁ…(笑)。
桝山:まぁまぁ。小山田さんのコメントっていうのは、あちこちに出てますが、美島さんのは貴重なので…。まずは”MIC CHECK”。あれは、私も 90年代初頭に何度か会ったことあるんですが、アーティストの藤原和通さんが作った、ダミーヘッド型マイクですよね。3Dで音が聴こえる。
美島:そうですね。あのマイクは録音するのが大変だった。最初、コンピュータやマルチトラックレコーダ、ヨンパチ(48)で録ろうと思ったら、うまく録れないんです。DATウォークマンに、ミニピンケーブルをつないで録ったのが一番良かったんで、それを使いました。
あのマイクすごい特殊で そういう風にやるとうまく録れないんですよね。だから、DATウォークマンにミニピンケーブルでマイク繋いで録ったのが、一番よかったんで。DATウォークマンで録ったのを覚えていますね。
桝山:最近、映画やTV受像機では3Dが話題になってますけれど、音の3Dって、あまり流行らないですよね。ネタとしては面白いけれど、音楽的には、そんなに要らないかなと…。
美島:そうそう。だから、”Fantasma”でも、あの冒頭のところしか使ってないですよ。
桝山:なるほど。でも、まぁヘッドフォンで聴いてください、っていうのはあったんですよね。
美島:そうですね。うん。
桝山:それはやっぱり、パンニングや音の定位に…
美島:凝りだした頃だからですね。
桝山:なるほど。個人的には”Fantasma”リマスター、初回限定盤DVDに入っている、”MIC CHECK”のライブが面白かったですけどね。あぁ、これライブでやってたんだって。
美島:”あ、あ、あ、聴こえますか?聴こえますか?”から始まりますからね(笑)。
桝山:ライブ本番なのに、今チェックしてるぞ、みたいな(笑)。で、次は”MICRO DISNEYCAL WORLD TOUR”。これは、アルバム全体を象徴するような曲ですよね。
美島:そうですね。
桝山:なんかよく言われている比喩は、”オモチャ箱をひっくり返したような…”
美島:まぁ…そうですかね。(曲を聴きながら)あぁ、小山田さんがタイトルで悩んでいたのを、ちょっと思い出したな。ホントは、Disneyっていう単語をそのまま使いたがっていたような気がするんだよね。
桝山:あー。
美島:うん。でも、それ、ダメでしょ(笑)。絶対ムリだから(笑)。それで”Disneycal”になったような気がする。確か…。
桝山:この曲、けっこう複雑ですよね。私なんかのイメージだと”オーケストレーション”に近いから、どうやって作ったのか、とても興味あるんですけど。
美島:どうやってやったんだろう…。あ、でもオケ入ってますよね、ストリングスとか、そのストリングスの譜面を書いたのは覚えているな…。プリプロの時に、シンセでシミュレーションして、こんな感じで行こうって決まったから。
桝山:シンセでシミュレーションする前の段階はどんな感じなんですか?楽譜があるわけでもないし…。”パララッ、パララッ、パララッ”とか歌ってる訳ですか?
美島:言ってたかな〜? 覚えていないんだよな〜。ん〜。あぁ。あとこの曲、シンセは全面ミニムーグを使ってます。ミニムーグにはMIDIがついてないから、CV(Control Voltage)に変換する機械でやってました。
桝山:あー、MIDI規格が出る前は、CV・GATEで音源をコントロールしてた…。
美島:そう。それで、ミニムーグって日にちが経つと音が変わっちゃうんですよ。だから、音を作って”これだ”と決めたら、すぐに録ってたな。ちょっと思い出しました。
桝山:”音が変わっちゃう”というのは?
美島:だから、フィルタの感じとかが。やっているうちに少しずつ変わってきちゃって。
桝山:ナマモノって感じ?
美島:ナマモノって感じです(笑)。
桝山:それは、電源の状態によったりとかするんですかね。あとは温度とか、マシンの機嫌とか(笑)。
美島:(笑)何かわからないんですけど、変わるんですよ。
桝山:だから、”この音が欲しい”と思ったときに録音しておかないと、二度と録れないって感じですね。
美島:うん。”感じが変わっちゃうから…”って言って録ってました。
桝山:今でも使うことあります?ミニムーグ。
美島:いやぁ、今はもう使わないですね〜。Logicの中に入ってるシンセでやっちゃってますね〜。うん。
桝山:(”MICRO DISNEYCAL WORLD TOUR”の0'40”付近を聴きながら)曲作りの過程をしつこくうかがいたいんですが…。ギターなら、小山田さんが自分で弾いてみて”こういう感じ”と説明するのはわかります。でも、こういうスキャットというか”ランパンパンパー”とか歌ってて、他には自分で演奏しない音が入ってるのは、どうやって…。
美島:仮歌を歌ってましたね。うん。あ、で、これはアレだ、ドラムがループだ。最初のところのリズムが。この曲は、結構、ネタ持ってきてますね。
桝山:それが、後から権利関係をクリアするのが大変だったってというヤツですよね。
美島:そうですね。うん。
桝山:それは全部、記録を取ってあるんですか?
美島:ポリスターのディレクターの長井さんがずっとこう”今の、今のは何ですか?何ですか?”って言ってたような気がする(笑)。
桝山:(笑)あぁ、そこ大事ですからね〜。じゃ、録音にもレコード会社の人がベタについていた…。
美島:ええ、ベタについてますよ。
桝山:そうですか。へ〜。それは、今も?
美島:今はいないです(笑)。
桝山:ですよね〜。ああ、この頃は外スタだから。
美島:外スタも使ってるし、プリプロもしてるし、プリプロは”いついつやる”っていうスケジュールがちゃんと出てたから…。これの時はまだアルバムの発売日とかも決まっていたんじゃないかな〜。だから、スケジュールがキツキツで、最後のマスタリングの時には、みんなデロデロだったような気がするんだよね〜(笑)。
桝山:レコード会社の方は、その意味で、ケツを叩く係りみたいなものでもあるわけですね。
美島:…です(笑)。
桝山:それ、今居たら大変ですものね。
美島:”いつ、やるの?今日、何してるの?何もしてないじゃん…。またYouTube?”…みたいな(笑)。
桝山:(爆)こ、これ、書いていいんですか?
美島:いや、わかんないけど(笑)。
桝山:面白い!(笑)担当者の方、大変でしょうね〜。
美島:そうですね…。でも、自分のスタジオを持ってると、そういう風になっちゃうのかな〜。
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