美島豊明さん ロングインタビュー
桝山:小山田さんは、コーネリアス名義の、いわゆるアルバムを作る仕事だけではなく、広告だったりリミックスだったり、最近ではプラスティック・オノ・バンドもあったし、色んな形でも仕事があると思いますが、コーネリアス名義のアルバム制作に限ってうかがいます。アルバムを作るときは、まずは企画というか、誰かがやろうと言って始まるわけですよね。それは誰が?
美島:それは、やっぱり小山田さんですね。
桝山:打ち合わせとかあるんですか?
美島:いやぁ、特に、何も無く…。いきなり始まっちゃいますね。
桝山:始まる時には、曲の断片のようなモノや、ラフなデモがあったりとか?
美島:(キッパリと)無いです!
桝山:ゼロ?
美島:ゼロですね。まぁ、ファーストアルバム(”THE FIRST QUESTION AWARD”)やセカンド(”69/96”)の頃は、コード進行が事前にあって、こうしたいんだという希望が…。
桝山:それはコード譜ですか?
美島:いや、彼の頭の中に入ってるんで、”こうしたいんだ”と実際にプレイしてイメージを伝えてました。
桝山:それが15年前くらいの話ですね。で、今は?
美島:来てから考える(笑)。P006は3D(コーネリアスの所属事務所)の岡社長と僕のツーショット。社長の誕生日が4月の1日か2日で、僕が4日なんで。
桝山:あぁ、だからケーキが2つ(笑)。
美島:P007では、もう”Point”のミックスダウンが始まってますね。”Point”か別の作業かはわかりませんが、まだトラックダウンには外のスタジオを使ってたんですね。48(チャンネル)のマルチ(トラックレコーダー)が回ってるもんな…。場所は、どこだろう?青葉台かな?ちょっと確定できないです。この頃はまだ、外のスタジオではプロトゥールズ無いんですよ。プロトゥールズから一旦48にデジタルで流しこんで、48でミックスしていた時期ですね。
桝山:今はもう、全部マックでできちゃいますもんね。プロトゥールズの導入は早かった?
美島:そうですね。プロトゥールズのバージョン3だったかな、最初に買ったのは。まだ24ビットでは録れなかった。16ビットの44.1Khzか44.8だけで、そんなに音が良くなかったから、ディレクターさんによっては”こんなのダメだよ”とボロクソに言われて、クソーと思ったのを、よく覚えてます(笑)。
桝山:やっぱり、マルチだよ、テープだよ。みたいな?
美島:そうそう(笑)。
桝山:えー、ここの所はしつこくうかがいたいんですが、曲作りは具体的には、何から始まるんですか?まぁ、曲にもよるんでしょうが。
美島:んー。とっかかりが、曲によって毎回かなり違うので、んー、よく覚えてないんだよなぁ…。
桝山:たとえば、楽器を持って弾いてみて、何か気になる音があったら、そこから始めるとか?
美島:そうですね。テンポから始まることもあるし、こういうコード進行をピアノで入れてみてよ、って言われてMIDIで鳴らしてみることもあるし。でもやって行くうちに、テンポもコード進行も変わってきちゃうんで、最初のとっかかりがどこだったかは、わからなくなるっていうのが正直なところですね。
桝山:ふむ。ということは、建築の比喩でいえば、設計図があって、それに従って作っていくというより、”木で行こう”とか”コンクリで行こう”などの発想があって、もう作っちゃうと。
美島:とりあえず建ててみよう、ですね。そういう作り方ができるのが、今のレコーディング技術の一番…
桝山:いいところ?
美島:良さでもあるし、袋小路に入り込みやすい理由でもあります。そうやってガーッと作っていって、ある程度の所まで組みあがったら、僕は一回バラすんですよ。解体したモノの素材を、もう一度厳選してそろえてから、もう一回組み直すんです。
桝山:ふむふむ。”バラす”って、どういうことですか?たとえば、ドラム、ベース、ギター、ボーカルで、ある程度まで組上がっているとして。
美島:ドラムの音色にしても、フレーズにしても、最初は適当に、というか”仮”で入れているので、それぞれの素材をバラバラにして、もう一回、一からコードを入れなおすとか…。具体的にいうと、6度の和音だと思っていたら、実際にほしい響きはサーティーンス(13度)だったとか。そこを入れ替えるとベースラインも変わってきますし。
桝山:その”バラす”タイミングというのは、どのあたりなんですか?
美島:曲の行き先、全体像が見えてきたときですね。
桝山:それが見えてきたかどうかは、誰が判断するんですか?
美島:いや、それはなんとなく、二人で”曲の雰囲気が見えてきたね”っていう感じになるので。翌日、僕が早めに来て作業したりして、それをまた聴いてみるという。そこから、また新たに録音したりもします。
桝山:確か”Sensuous”が出た頃のサンレコ誌に、小山田さんと美島さんのインタビュー記事があって”1曲の全体像が見えるまでに、1ー2週間くらい”と書かれていたと思うんですが。
美島:そうですね。リミックスだと2−3日で見えてくるけれど、まったくゼロから作ると1週間くらいはかかります。で、バラして、もう一度組み上げた後は、細かい部分をさらにツメて行くことになります。
桝山:そのとき、歌は入ってるんですか?歌詞は?
美島:歌ものは、歌が入ってることもあるし、MIDIでメロディを鳴らしていることもあります。歌詞が入るのは一番最後です。作詞の過程は、僕にはまったくわからない部分。
桝山:歌が入ってるときは、仮歌が入ってると。
美島:そうです。ドレミで歌ったりしてます。
桝山:小山田さんは、五線譜あまり使わないと以前うかがいましたが。
美島:譜面は無いです。頭の中にあるメロディを、音程のドレミに置き換えてるんでしょうね。
桝山:プロだから、当たり前なのかもしれませんが、普段、五線譜を使わないのにドレミで歌えるって、スゴいですね。
美島:まぁ小山田さん、耳はすごくいいですからね。仮歌が入っていても、作っているうちに、また変わっていったりしちゃいます。
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